「どうか皆さん、難しく考えずにフィーリングでアニメ映画を見てほしいです」

6月10日から15日までトロントで行われたWorldwide Short Film Festivalで、日本のアニメーションオムニバス映画「GENIUS PARTY」と「GENIUS PARTY BEYOND」が特別企画として上映された。今回のフィルムフェスティバルに、日本から渡辺信一郎アニメ監督が代表として参加し、舞台挨拶でこう述べた。

日本のアニメーション映画は映像や作品の質が高いことから、海外でも高く評価されているのはご存じだろうか。上映当日は、平日の夜にもかかわらず、多くの人が日本のアニメーション映画を見に映画館に集まった。中には日本のアニメDVDを片手に持つ少年や、日本のアニメタイトルを表記したTシャツを着た興奮気味の中年までいる。ここカナダでも独特な日本のアニメーションに興味を持つ人が多いのかもしれない。

「アニメーションは知らない」「興味がない」と思っている方も、どうかこの機会に"難しく考えず"にアニメをご理解いただきたい。

「GENIUS PARTY」の一作品を制作したアニメ監督、渡辺信一郎氏にお話をうかがうことができた。

アニメ監督という仕事

そもそもアニメ監督とは、一般的に聞きなれない。一体どういう仕事なのだろうか。

「基本的に、実写映画の監督と同じ作業です。実写映画の監督は、俳優に指示をして作品を作るのですが、アニメ監督の場合はアニメーター(動画作家)に指示をして、自分のイメージする作品を作る。実写映画と制作過程は同じで、指示をする相手が俳優からアニメーターにかわるだけです」

アニメーターは、アニメ映画を作る際、通常40人位いるという。同じ1つのキャラクターを描くのにも、それぞれのアニメーターによって微妙な違いが出てくる。その違いを修正するのが作画監督だ。アニメ監督は、作画監督と相談しながら作品を作り上げる。

アニメ監督になるまで

アニメ監督を目指す者は多い。しかし実際職につけるのは、ひとにぎりの逸材…。渡辺監督はどうやってアニメ監督になったのだろうか。

「最初はアニメ制作会社で働きました。1日20時間働いていたこともありましたね。その後、制作進行の仕事をしましたが、もちろん素人がすぐに監督になれるわけではないので、認めてもらえるまでチャンスを待ちました。チャンスをもらったらそれを生かし、『この人の作る作品は面白いじゃないか』と思ってもらえるように監督にアピールしました。制作進行を3年し、その後7年は監督の下でエピソードディレクター(各話演出)として働きました」

数多くいるというエピソードディレクターの中から、アニメ監督として認められる人は少ない。苦労ばなしは語らなかったが、計り知れない努力があって結果があるのだろう。

コンセプトは「制約ゼロ」。アニメーションオムニバス映画「GENIUS PARTY」

「GENIUS PARTY」は、12本の短編アニメーションオムニバス映画。スタイリッシュかつ大胆な作風で、海外からも制作依頼を受けるアニメーション制作会社「STUDIO4℃(すたじおよんどしい)」の企画制作によるもの。精鋭の映像作家たちが、どれも斬新な感性で作品をつづっている。渡辺監督は、STUDIO4℃から依頼を受けて「BABY BLUE」という作品を作っている。

映画全体のコンセプトは何だったのだろうか。

「制約ゼロです。普段アニメーションを自由に作ることができないので、今回はリミットをすべてとっぱらって、自分達が作りたい作品を自由に作りました」

以前ハリウッド映画「マトリックス」の監督、ウォシャウスキー兄弟とアニメ映画の仕事をした渡辺監督。尊敬するウォシャウスキー兄弟とは別に、ハリウッドの映画界ではビジネスがからみ、自分の思い通りにいかない作品作りを要求されるというフラストレーションを感じたことがあったそうだ。

渡辺監督が手がけた作品「BABY BLUE」は、男女の高校生が主役の純愛ラブストーリー。アーティスティックで複雑な表現が多い他の作品の中で、「あえてシンプルで分かりやすい内容の作品にした」のが狙いだとか。

子供の頃はテレビっ子?

子供の頃に漫画やテレビでアニメをたくさん見たという人は多いと思うが、渡辺監督は子供の頃に見たアニメが今の仕事に影響しているのだろうか。どんな子供時代を過ごしたのか聞いてみたが、答えは意外であった。

「子供の頃は田舎育ちで、川で泳いだり、山で追いかけっこをする野生児でした。テレビっ子ではなくて、アニメもたくさん見たわけではありません。田舎育ちなので、今でもつい憧れで都会的な作品を作ってしまいます。逆に、宮崎駿さんは都会育ちなので、『となりのトトロ』のような田舎のイメージに憧れ、自然や田舎が舞台の作品が多いのかもしれません」

アニメ監督は辞められない

最近では3Dなど、コンピューター処理も増えてきているが、アニメーション映画の多くは手作業によるもの。1本の作品を作るのに多くの時間と労力を費やすという。ではアニメ監督として、どういう時に楽しさを感じるのか聞いてみた。

「作品を作っているときは非常に苦しくて、『もう辞めてやる』とか、『これで引退だ』なんて毎回言っているのですが、1本の作品が完成した時はうれしくて、同時に充実と開放感で満たされます。物を作る人は皆そうだと思いますが、そういった喜びを感じるために、続けていられるのだと思います。苦しいだけだったらもうとっくに辞めているはずです」              

10年前、今のように海外で外国人を前に舞台挨拶を行うとは思ってもいなかったと、渡辺監督は笑いながら言う。そして、映画を見に集まった観客を前にこう話していた。 「手で描く絵には、どんな世界でも描く人のスピリットがにじみ出る。最近ではコンピューター作業も増えていますが、どこか味気ないものです。これからも手で描くアニメーションにこだわり、そのすばらしさを伝えていきたいと多くの日本人アニメスタッフが思っているのです。日本人がアニメーションを描くのをやめたら、誰も描く人がいなくなるかもしれません」

ひとつひとつの巧みな業とこだわりが生む、質の高いアニメ。多くの人を空想の世界で楽しませてほしい。