トロント近郊にオーガニック味噌を製造しているカナダ人夫婦がいるという話を耳にして、さっそく訪問してみた。
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味噌工場の前で、経営者
ジェリー・ルーウィキー、
スザンヌ・カーディナル夫妻 |
ピッカリングからブロック・ロードを北にまっすぐ15キロほど上がると、クレアモントという人口600人の村がある。周辺は牛、馬の牧場、それにコーンや大豆の畑といった典型的な農業地帯。そこにジェリー・ルーウィキー、スザンヌ・カーディナル夫妻の住み家と味噌工場が建っている。
ビジネスの名称は「トラディション・ミソ」。
訪ねてみると、夫妻はまず、作っている製品2品のサンプルを見せて、説明してくれた。
ひとつは、黒っぽい色の玄米味噌。3年ものだ。
もう一つは1年ものの玄米味噌。これはより多くの麹(こうじ)が入っていて、甘い味がする。
スザンヌさんが味噌汁を作って、お椀とはしで記者に味見をさせてくれた。独特の風味があっておいしい。
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カナダ人がなぜ、カナダ東部でオーガニック味噌を作るようになったのか、興味がわくところである。
ジェリー夫妻は以前、トロント北のマーカムでヘルスフードのディストリビューター(販売代理店)を営んでいた。さまざまな健康食品のなかで、特に日本の味噌に注目した。
日本から味噌を輸入することについて日本人の友人に聞いたり、いろいろ関係機関に当たってみたが、むずかしいことが分かった。それではカナダで味噌を作ってはどうかと考えるようになった。
夫婦で愛知県岡崎市の「八丁みそ」の工場を訪問。そのほか中部地方、広島、府中、四国、仙台と、日本各地の味噌会社を訪れては伝統的な味噌の製造所を見学して回った。訪日回数は4回にのぼる。
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圧力がま |
同時に静岡の茶畑、和歌山の梅干し工場、名古屋のたまり工場、さらに醤油やせんべいの工場などを訪問して、これら日本食品の知識を深めた。
その頃、モントリオールの健康食品・オーガニック食品会社「興陽食品(コーヨー・フーズ)」のトロント支社がオンタリオ州でディストリビューターを始めた。1985年のことである。
「オーガニックについては、ヘルスフード・マーケットで取り扱っていたのでよく知っていました。日本の大部分の味噌はパスタライズド(殺菌)されていますが、そうすると、本来、消化によい役目を持つ味噌のバクテリアを殺してしまうのです。そこで、オーガニックの良さが発揮されてくるわけです」とジェリーさん。
夫妻はオーガニック味噌を自分たちの手で作る計画を立て、実行に向けて動き始めた。
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さっそくオーガニック味噌づくりの修業を、と考えたが、あいにくカナダ東部にはそのような工場は見当たらない。調べた結果、BC州のバンクーバーアイランドの内海にあるデンマン島に日本人の味噌工場があることが分かった。吉原靖夫さんが経営する「慎明堂(しんめいどう)」。
ジェリーさんはデンマン島に赴き、吉原さんに「カナダ東部に良質の味噌を売り込みたい」とていねいに説明した。そして「弟子入り」をさせてくれるようお願いした。
「吉原さんは、味噌の販路として東部には興味がない、西部とは競合しないということで、ぼくに作り方を教えてくれると言ってくれました」
こうしてこの島で味噌づくりの修業を積んだ。1995年10月のことである。
翌1996年10月、現在のオンタリオ州クレアモントに工場を立ち上げ、「トラディション・ミソ」社が本格的に始動した。
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原料の大麦、玄米 |
工場には圧力がま、麹をねかせる装置、精米機、大型の樽(たる)4個などを設置した。それに原料を保管する場所がある。
原料の主なものを挙げてみよう。
▼オーガニック・ソイビーン(大豆)=オンタリオ州ピーターボロから仕入れる▼バーリー(大麦)=キッチナー/ウオータールー産▼ブラウンライス(玄米)=米テキサス州またはアルゼンチンからのもの▼ナチュラルシーソルト(天然海塩)=ポルトガル産で、精製してなくて100%ミネラルを含む(コストが高くつく)▼麹=日本から麹菌を取り寄せる
工場では蒸した米に麹菌をまぶし、50時間(2日間)麹室(こうじむろ)でねかせておくと麹になる。
最初の製品が出来たのは1997年4月だった。以来、夫婦で地道に生産を続けてきた。現在の生産高は、年間最高1万8000ポンド(およそ8100キログラム)。前述のコーヨー・フーズ社とオンタリオ・ナチュラルフーズ・コープがディストリビューターとなっている。
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トラディション・ミソ社の製品は現在、いくつかの小売店で販売されているが、もっとPRをして販路を拡張していきたいと意気込むジェリーさん。オーガニック食品のため、原料コストが高くなり、容器もオーガニック味噌用の材質のびんを使用するため費用がかさむ。こういった事情で普通の味噌より小売価格が高い。値段は小売店によって違ってくるが、1びん(450グラム入り)が10ドルよりちょっと高めだという。
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製造用の大樽 |
ひと通りお話をうかがった後、ジェリーさんに自宅の敷地内にある工場を案内してもらった。
味噌は気温の条件がうるさくて、夏はあまり輸送しないとのこと。だから味噌工場の作業や輸送は冬のほうが多いという。
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ジェリーさん夫妻にオーガニック味噌の効用について尋ねてみた。
「消化に良いので胃や腸の働きを強化する効能があります。パスタライズド(殺菌された)味噌はこの働きがありません。うちで作っている製品はプロバイオティックで生きているので、冷蔵庫に入れておく必要があります。それから、かなり良質の塩分を使っているので、ミネラルが豊富で減塩効果は大きい。タバコ、ガン(乳ガンを含む)、放射能被爆に対してもオーガニックはいいですよ」
ここでジェリーさんは、大豆を多く摂取しすぎると健康によくないと語った。少量だったら大丈夫だが、大豆はカルシウムを多量に含んでいるので、食べ過ぎると肥満の原因になるのだという。
「でも、大豆製品の醤油、納豆、味噌はだいじょうぶですよ」
スザンヌさんは、息子がアレルギー体質でよく皮ふにラシュ(じんましん)ができるのだが、オーガニック味噌を食べ始めたらアレルギーが消えたという体験談を話してくれた。
今後、このオーガニック味噌がカナダ東部でどれだけ広く浸透して、販路が拡大していくか、注目されるところである。
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